On the Wood

木について

木について書こうとする時何時も逡巡する。

木についての一部を書いただけで、それを読んで生まれる前から全てを知っていたかのように騙る者や、本質が判らないにもかかわらず、文句を言っていれば、自分を大きく見せれるとばかり、喚く者、自分だけが特別で努力もせず、リスクも背負わず口先で良い物だけを手に入れれると思っている者が、必ず現れる。

道具に関しても同じような事が起こるので、道具考をアクセス制限にした。

人を集めて、道具に関して薀蓄を騙る会に参加したことも多いが、数多くの疑問、勘違い、思い込みに出合うが、多くの人々はただ薀蓄に耳を傾けているように見える。そして、そこでの話がたいして検証されることもなく流布されてゆく。恐ろしい話だ。

木に関しても、材木屋、材料屋そのものが騙されていること、勘違いしていることがある。過日もクラロウォルナットに関して、真贋をみてくれと言われた。本物のクラロウォルナットを見たことのある人は数少ない。アメリカにおいてもである。さらにネットの世界ではなおのこと、多くの虚偽が流布され、材木屋も木工屋もそれに乗って金儲けをしている。そして彼らは常に声大きく、猛々しい。だが、騙されている者がいい気持ちになっているなら、それはそれでいいのかも知れない。そして、真実は沈黙する。人はその器以上の物を手に入れることは出来ないのだと、確信する。

ギター材について
ネック材としてのマホガニー
まだどのような材でも使用できる頃、ネック材として選ばれたのは中米のマホガニーだった。

その本マホガニーも今は全ての種類でワシントン条約にリストアップされ入手が困難になった。

そこで近年その代用として多くの製作家がアフリカンマホガニーを採用している。

アフリカンマホガニーと本マホガニーとではまったく特性が違う。

にもかかわらず、そのことに製作家も演奏家もまったく無自覚であることに驚く。

アフリカンマホガニーと本マホガニーとの最大の違いは狂いである。

真性マホガニーをネックとして採用してきた最大の理由はその狂いにくい安定性であり、

アフリカンマホガニーを採用してこなかった理由もその狂い安さである。

ネックにとってもっとも重要な役割は弦を安定して支えることである。

材の安定性はもっとも重要な条件である。

にも関わらず、製作家も演奏家もまったくそのことに無自覚であることに、重ねて驚く。

もちろん、ネックの木質による音への影響もけっして無視できないと私は確信している。

バック、サイドのハカランダ、ブラジリアンローズへの関心と比べ、

ネックがギターにとってどれほど重要であるかということに、製作家も演奏家も

あまりにも無自覚、無関心であるように思う。

これらは製作家やギター製作学校の製作に関しての無自覚さの連鎖かもしれない。

ネット上ではギターの音、性能について無数の書き込みがなされているが、

それらの多くは知らず知らず、誰かに誘導された言動であるのも知らないことにも、無自覚である。

1970年代後半のマーチンHD−28のネック。

木目に沿って欠けてしまった。

ワンピースのネックではこれぐらいの目の流れたネックは一飯的であるが、経年変化で木が脆くなると、欠ける危険性が高まる。

これが柾目に近くなるほどその危険性は低くなる。

それが柾目を使用する理由の一つではあるが、ワンピースで柾目材は少ない。

一飯の材料屋では柾目材はほとんど入手できないだろう。

製作家でも材について知らない人が多い。

また、残念なことだが、質を求めることより、利益を求める者も多い。